今年の4月から京都精華大学の学長に就任された
ウスビ・サコ氏。
自らの大学がいかにあるべきかを語っておられる。
「学長としての私の方針は、一言でいえば、
大学というものの『原点』に帰ることです。
近年は新自由主義的な考え方の影響を受け、
リベラルアーツすなわち教養教育が、
ないがしろにされる傾向が強まりました。
それとともに新自由主義が最も重要視する『市場』が
欲する実用的な技術を学生に身につけさせ、
即戦力となる人材を育てることが大学にますます
求められるようになりました。
…しかし、それでは単なる専門学校になってしまいます。
大学とは学生が今、ますますしにくくなっている自由に
『考える』という営みを学ぶことができ、
社会が日々の課題に終われて考えられないことを
考える場所であるべきです。
また、学生にとっては、
『こういう人間になりたい』という思いを育める
人間形成の場所でなければなりません」
「真にそういう大学にになれれば、
本学から社会に出る学生の『価値』は『市場』が
すぐに認識できないかもしれませんが、
長期的に見れば、社会の知性のレベルを底上げし、
社会をリードしてくれるはずです。
また、そのような人物は少子化と高齢化で
内向きになっている日本社会にこれからさらに
必要とされるでしょう」
「日本にいる人はあまり気づかないかもしれませんが、
日本を訪れた外国人は、ホッと安心して落ち着いた
日常を送れることに他では得られない価値を見出だして
いるはずです。
…日本のような成熟した社会をどうすれば築けるのか。
内側に向かっている目を外に転じれば、
そのために何をすればいいのかを学び、
吸収したい国はいくらでもあります」
「しかし、それを教えるためには、
日本が持つ経験や能力の価値に気づき、
誰もが理解できる言葉でそれらを伝えられる人物が
必要です。そんな人物を本学は育てたいのです」
同氏は、アフリカ出身者で初めての日本の大学の
学長かと言われているらしい(マリ共和国出身)。
文科省の主導下で、
大学が安易に新自由主義の風潮に迎合している
昨今の傾向を警戒し、知性の基盤を養うリベラルアーツ
を重視するのは、立派な見識だ。